英雄の証明(Ghahreman/A Hero)
story
イラン南西部の古都シラーズ。服役中のラヒム・ソルタニ(アミル・ジャディディ)は2日間の休暇で出所。遺跡を修復中の義兄ホセイン(アリレザ・ジャハンディデ)を訪ね、借金を返すアテができたので出所を考えていると話す。彼は離婚した妻の兄バーラム(モーセン・タナバンデ)からの借金が返せず、訴えられて服役しているのだった。
婚約者のファルコンデ(サハル・ゴルデュースト)が黒いチャドルをまとい、ラヒムを迎えてくれた。チャドルの下には彼女が拾ったバッグが隠されている。中には17枚の金貨が入っていた。二人はこれを神様の思し召しと思い、現金に換えて借金を完済するつもりだった。
ホセインの家では姉マリ(マルヤム・シャーダイ)と子どもたちが歓迎してくれた。息子のシアヴァシュ(サレー・カリマイ)もそこに預けられていた。ラヒムはまず、金貨を貴金属店へ持って行くが、価格が下がり期待した半値にしかならない。バーラムとの交渉も難航し、全額を返せないなら残額の小切手をよこせと言われてしまう。
翌日、ラヒムは後ろめたさもあり、バッグを持ち主に返そうと決意。銀行へ相談に行き、張り紙を出すことにする。連絡先には刑務所の電話番号を載せた。すると、刑務所へ戻ったラヒムに持ち主から連絡があり、中身を確認した上で姉夫婦の家でバッグを受け取ってもらった。
ところが、この一連の行為が話題となり、刑務所の幹部も大喜び。メディアからの取材が殺到し、借金で投獄されているラヒムのために、チャリティ協会がイベントを開催。多額の寄付金が集まり、就職先まで斡旋してもらうのだが…。
アジコのおすすめポイント:
もしも、金貨の入ったバッグを拾ってしまったら…借金が返せず服役中の主人公は、それで借金を返して出所したいと願います。けれど、金額が足りなかったことから、後ろめたさもあって持ち主を探し、バッグを返すことに成功。正直者の囚人として一躍世間からもてはやされ、刑務所もイメージアップができると大喜び。ところが、持ち主自身が行方をくらましたことから作り話という噂がたち、小さな嘘やごまかしが裏目に出ることに。悪い噂はSNS上であっという間に拡散されてしまいます。ちょっとした綻びから人間関係が破綻していく様を描くのは、イラン映画界の名匠アスガー・ファルハディ。『彼女が消えた浜辺』『別離』『ある過去の行方』『セールスマン』…と、個人と集団、立場が違う人間同士の衝突など、本作でもその手腕が発揮され、カンヌ映画祭で見事グランプリを受賞。ことに本作では、吃音のある息子との絆を取り戻し、最後には自分の弱さと立ち向かっていく姿に救いが感じられます。主演はアミル・ジャディディ。彼を窮地に追い込んでしまう娘役を、監督の娘サリナ・ファルハディが演じています。舞台となったのは古都シラーズ。冒頭で壮大な遺跡、2500年前のクセルクセス王の墓が登場。元看板職人だった主人公が、姉の家で料理の盛付けを手伝っているところも興味深いです。
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