彼女が消えた浜辺(About Elly)
story
彼らはカスピ海沿岸のリゾート地へ向かっていた。セピデー(ゴルシフテェ・ファラハニー)が大学の友人たちに声をかけ、3日間の休暇を楽しもうとしていたのだ。集ったのは、離婚してドイツから一時帰国しているアーマド(シャハブ・ホセイニ)、その妹ナジーとマヌチュールの夫婦、友人のショーレ(メリッラ・ザレイ)と夫と子どもたち、セピデー一家、そしてセピデーの子どもが通う保育園の先生エリ(タラネ・アリシュスティ)の11人だった。
エリはセピデー以外の全員と初対面だったが、セピデーは彼女を温かく迎え入れる雰囲気を作ることも忘れなかった。そしてセピデーには、別の思惑があった。今回の旅行を、アーマドとエリの出会いの場に仕立て上げようとしていたのだ。友人たちは少し躊躇しつつも、セピデーの思惑に賛同し、アーマドもその申し出に乗る。しかし、エリは美しく聡明な女性で、全員がエリを受け入れ、とりわけアーマドは彼女に夢中になっていくのだった。
予約したはずのヴィラが満室だったため、彼らは使われていない海辺の別荘へと案内される。別荘は朽ちかけていたものの、そのロケーションに魅了され、男たちは別荘の修理を始め、女たちは料理を作りはじめる。子どもたちは海に夢中になり、夜になれば皆で童心に還ってゲームに興じた。開放感の中、皆が大切な時間を楽しんでいたが、ひとりエリだけはわずかによそよそしさを醸し出していた。
翌朝、エリは男たちに混じってビーチバレーを楽しんでいた。もともと一泊の予定で来ていたエリは帰りたいとセピデーに申し出るが、なんとかアーマドとの仲を深めたセピデーは彼女を無理矢理引き止めてしまう。そんな時に事件は起こった。ショーレとペイマンの子アラーシュが海で溺れたのだ。男たちは海へ入り、必死の救助でアラーシュはなんとか息を吹き返す。ところが、今度は子どもたちを見張っていたはずのエリが見当たらないことに気づく。海難救助隊の出動を頼み、再び彼らは捜索を始めるのだが…。
●アジコのおすすめポイント:
ここ数年、様々なタイプの作品が紹介されているイラン映画界から、今度はミステリータッチの群像劇が登場しました。海に面した別荘。波の音。カラフルなチャドルをお洒落に纏った美しい女性たち。バカンスを楽しむ大人たちの中で密かに仕組まれた恋の予感。ところが、ある事件をきっかけに、彼らは困惑し、やがてそれぞれの人間性を露呈していくことになっていきます。舞台劇にもできそうなこの群像ドラマを書いたのは、演劇畑出身のアスガー・ファルハディ監督。本作で見事、ベルリン国際映画祭の銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞。その他様々な映画祭で、脚本賞も多数受賞しています。一体、エリはどうなったのか? 最後まで緊張感が途切れず楽しめますが、現代イランの夫婦やカップルのあり方、考え方、家庭生活の様子なども垣間見られ、そういう面でも興味深い作品です。
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