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誰が誰の手を握るか、
というのはとても重要
ー ネリシア・ロウ(劉慧伶)
12月5日より絶賛公開中の『ピアス 刺心』は、仮出所した犯罪者の兄に対する弟の愛情と疑惑を描くヒューマンサスペンス。主人公の心の葛藤と並行して、シングルマザーでクラブ歌手でもある母親の再婚話やフェンシング仲間との純粋な恋模様も描かれ、兄弟関係の修復から崩壊、さらにその先へと至る姿が重奏的に進行していきます。監督&脚本はシンガポール出身の新鋭ネリシア・ロウ(劉慧伶)。台湾で実際に起こった事件をモチーフに、自身の自閉症の兄への感情も重ね合わせ、兄への愛を問う鮮烈な長編デビュー作となりました。
日本公開に先立つ11月初旬に、そのネリシア・ロウ監督が来日。かつてフェンシングの国家代表にも選ばれた実力を持つ監督。2006年に引退後、ニューヨークで映画を学んでいます。2020年には「次世代の巨匠」になる可能性を秘めたアジアの才能を育てる「タレンツ・トーキョー」にも参加。今年の「タレンツ・トーキョー」プレイベントに修了生として出席し、『ピアス 刺心』が先行上映されました。アジクロでは、そのネリシア・ロウ監督に単独インタビューをさせていただきましたので、公開と合わせてご紹介します。
Q:『ピアス 刺心』というタイトルは先に決まっていたのですか? それとも撮影が終わってからでしょうか?
監督「脚本作りに5年間かかりました。4年目に政府の助成金を得るため映画のピッチング(短時間のプレゼンテーション)をしたのですが、その時にタイトルが必要になり思いついたタイトルです。なので、物語が先で、タイトルが後です。もともとは中国語のタイトル『刺心切骨』で「心を刺して骨を切る」という意味です。これは「苦しい愛」を表す熟語。フェンシングのイメージもありますが、兄が自分のことをどう思っているかという心の痛みがストーリーにあるので、このタイトルにしました。
先に中国語タイトルが決まり、英語はどうしようということになりました。私はシンガポール出身なので主な言語は英語です。『Crouching Tiger, Hidden Dragon』(アン・リー監督の『臥虎蔵龍』=邦題『グリーン・デスティニー』)というエキゾチックなタイトルがありますが、本作の場合『Stab Heart, Slash Bone』(中国語タイトルの英語直訳)だとエキゾチックではあるけど、内容とはちょっと違うなあと思い『Pierce』だけにしました。とてもモダンなタイトルになったと思います」
Q:日本のタイトルは『ピアス 刺心』なので、観客には内容がわかりやすいと思います。(監督も納得)元はフェンシングの国家代表でしたが、そのキャリアを捨て映画監督になられました。もともと、映画がお好きだったのですか?
監督「実は6、7歳頃から映画監督になりたいと思っていました。天国からこれをやりなさいと言われてるような、不思議な感覚がありました。子どもの頃はいつも『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』『ポカホンタス』などを観ていたので、後にフェンシングをやることになったのも実は『スター・ウォーズ』の影響なんです。(ライトセーバーに憧れていた)だから、映画がもともと好きで、フェンシングはラッキーなアクシデントみたいなものですね」
それでは、将来アクション映画も撮れそうですね。
監督「いつも冗談で言ってます。もし私が『スター・ウォーズ』を撮ったら、剣闘シーンだけになっちゃうと。ストーリーはなくてライトセーバーだけ(笑)」
Q:主演の2人にとってフェンシングは初めてですよね? かなり練習したのでしょうか?
監督「そうなんです! 私にはキャリアがあるので、実は監督するのが難しいのです。どんな小さなミスも見逃さないので。撮影の遅れもあり、彼らは8ヶ月間練習しました。弟のボーイフレンドを演じた俳優(ローゼン・ムー)は後から代役で入りました。彼だけ数週間しか練習できなかったのですが、実は一番上手でした。兄役のヨウニンは大丈夫かなと、ちょっと心配していました(笑)。マスクをつけるからスタントでもよかったのですが、それはしたくなかった。やはり役のキャラクターに入り込むために、本人にやって欲しかったのです。スポーツ映画ではないので大丈夫だろうと思いましたが、なんと撮影の時だけ、彼は急に上手くなりました。それはよかったです。


ジージエはジーハンにフェンシングの奥義を教えてもらう

©2Potocol_Flash Forward Entertainment_Harine Films_Elysiüm Ciné
ただ、全体の中で1秒だけスタントが入っているシーンがあります。兄弟のどちらか秘密ですが、昔のフェンシングのチームメイトに「わかる?」と訊いてみると「あのシーンだね」と当てられました。「なぜ、そこだけ使ったか理由もわかる」と。それは私のフェンシング時代の代表的な動きだったんです。自分では意識していなかったのですが、自分の代表的な動きだけは完璧にこなして欲しかったんでしょうね。そこだけ、知らないうちにスタントを使っていました(笑)」
やはりプライドが…
監督「そうです(笑)。俳優さんも上手かったけど、やはりスタントマンの方が上手でした。フェンシングは下半身をよく使うので、俳優さんたちもどんどん下半身が逞しくなっていきました」
Q:兄役のツァオ・ヨウニンも野球選手でしたから、スポーツマンとしてはフェンシングもうまくやりたいというプライドがあったのではないでしょうか。
監督「そう思います。彼は野球やいろいろなスポーツもやっていたので、フェンシングなんて簡単だと思っていたようです。でも、やってみたら難しかった。私もそうですが、シンガポールのチームやフェンサーはバレエや社交ダンスをやっていた人が多いのです。フェンシングはダンスに似ていて、頭も使いますがリズムが大切。リズムを知って自分の体をコントロールすることが必要なので、ダンスのできる人がいいのです。弟役のシウフーに「ダンスできる?」と聞いたら「クラスで取ったことがあるし、全然OK」と。彼は大丈夫でした。かなり上手くやっていました。兄役のヨウニンは「ダンスなんて絶対無理!」と言っていたので、難しかったのだと思います(笑)」(次頁へ)
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