ご家族のこと、シンガポール映画のこと
H:監督のお子さんたちもニューヨークで映画製作を学んでいると聞きました。
監督「長男は電子工学、次男は心理学、三男はコンピュータ・コーディグを勉強しています。三男のクリストファーは『TATSUMI マンガに革命を起こした男』などの音楽も作曲しています」
H:長男のエドワードさんは監督を目指しているそうですね。
監督「彼には才能があります。17歳の頃から一緒に仕事をしていますし、高校生の時にタクシードライバーに関する短編も撮っていて、東京ショートショートフィルムフェスティバルや釜山国際映画祭に出品しました。撮影・編集・監督・脚本と全部一人でやっているんですよ。最近の技術だと、なんでも一緒にできますからね。スマホで映画も撮れるし。それに、彼は物語を伝えるのが得意です」
A:シンガポールの映画界は今、若い監督さんがたくさん出ていますね。タイを舞台に映画を撮った『ポップ・アイ』のカーステン・タンさんとか面白い方もいます。エリックさんはそういう皆さんをずっと見てきているわけですが、今のシンガポール映画界をどう見ていますか?
監督「シンガポールの人口は500万人と言われていますが、実際に外国人ではない純粋なシンガポール人というと、320万人くらいだと思います。今度の東京フィルメックスで上映されるクリス・ヨウ(『幻土』のヨー・シュウホァ)はロカルノ映画祭でグランプリを受賞していますし、サンディ・タンはサンダンス映画祭でベスト・ドキュメンタリー賞(『消えた16mmフィルム』で受賞)を獲りました。これだけ人口比率の狭い国で、毎年たくさんの賞を獲っている国は、東南アジアではまずないでしょうね。まあ、食べ物が才能を育てているのかどうかはわかりませんが(笑)」
H:監督はシンガポールや東南アジア以外もあちこちに行かれていますが、1年でどのくらい海外へ行っておられるのですか?
監督「今年(2018年)は映画祭がもの凄くたくさんありましたね。4ヶ月くらい費やしたと思います。息子がいるモントリオールへは、撮影で行きましたが。それから、ファンタジア映画祭、ニューヨーク、トロント…と、まあ、僕にとってはフライトの距離がかなりあるので、中継地点みたいな感じですね」
A:最新作の6つの短編集はホラーですが、監督は最後に担当されたのですか?
監督「そうです。『Folklore(フォルクロア)』ですね。斉藤工さんが監督した『タタミ』はすごくいいですよ。呪われた畳のお話です。この短編集は今、ネット放映されています。日本は含まれていませんが、アジアではHBOチャンネルで、12月にはHBOヨーロッパでも放映されます。HBO GOのオンデマンドでも観ることができます」
H:今はそうやってネットで観られるので便利ですね。
監督「未来はもうすぐそこです」
ラーメン・テーは食べられる?
H:監督がこれまでの人生で一番影響を受けた人、または出来事を教えてください。
監督「う〜ん。母の料理ですね。映画のお祖母さんが作っている料理は、かつて私の母が作っていたものなんです。それをテーブルに並べています」(舞台挨拶では、特にチキンカレーが好きと語っておられました)
真人は祖母マダム・リーの家で母の料理と再会する
(c)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
ここで、橋本さんからアジポップ恒例の「7つの質問」をされました。なかなか面白い回答になっているので、答えは発売中のアジポップ第138号でご覧ください。
A:とても美味しそうなラーメン・テーでしたが、実際にどこかで食べられますか?
監督「食べられます。映画で真人の叔父ウィーの店になっていたバクテーレストランでは、今、ラーメン・テーを出しているんですよ」
A:では、シンガポールに旅行に行けば食べることができるんですね。
監督「そうです。ぜひ試してください。美味しいですよ」
このラーメン・テーがシンガポールで食べられますよ!
(c)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
食をテーマにした映画だけに、美味しいお話もたっぷり聴けたインタビューでした。前日のプレミア上映の舞台挨拶で「食には癒しの力、人々をつなげる力がある」と語っていたエリック・クー監督。この作品は、まずラーメンとバクテーでおいしいものができるかどうか試作を重ね、ほんとうに美味しいものができた段階で、初めて脚本にとりかかったとのこと。その姿勢に斎藤工さんは「監督はほんとうに優れたクリエイターだ」と感じたそうです。
高崎の観音様のように「愛と慈悲に満ちた映画」になっている『家族のレシピ』。とてもシンプルな作品なのに、国を問わず心の琴線に触れる、観るたびに泣けてくる不思議な映画でもあります。ぜひ、劇場で何度もご覧ください。
(2018年11月2日 渋谷にて2媒体合同インタビュー)
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