松田聖子さんのこと
A:松田聖子さんの役ですが、もともと脚本にあったのですか? それとも、彼女のために用意したのですか?
監督「もともとありました。というのも、橋渡しとなるシンガポール在住の日本人が必要だったのです。美樹は真人にとってはソウルメイトで、食について情熱的なやりとりができる相手です。日本人ブロガーという設定にしましたが、私は松田聖子さんの声が好きなんですね。彼女の大ファンなので。過去に母親が書いたマンダリン(中国語)の日記を日本語に訳して読んでくれますが、それを彼女の声で聞きたかったのです」
A:聖子さんはマンダリンもお上手でしたね。
監督「この映画のために勉強してくれました」
H:彼女の出番の撮影は何日くらいだったのですか?
監督「高崎とシンガポールと合わせて18日間で撮影しました。彼女が何日だったかは覚えていませんが、高崎では5日間だったかな。シンガポールが13日間だとすると、彼女は8日間くらいですね。先に高崎で撮影し、シンガポールで撮影中に彼女が合流しました」
現地フードブロガーの美樹は様々な面で真人をサポートする
(c)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
H:聖子さんと初めて会った時はどんなでしたか?
監督「とても緊張しました(笑)。彼女と会ったのは昨年で、最初はスカイプで会話をしたんです。脚本を気に入ってくれて、それだけでも嬉しかったのですが、とても礼儀正しく、聡明で、気取らない方だったのでびっくりしました。それから、6月末か7月に東京でお会いしました。ホテルにある誰もいない大きなレストランだったのですが、すごく広くて、それだけでも怖くなりました。ハリウッドでも日本でも、ある意味、撮影形式というのがあると思うんです。私の場合は、その場でなんでもやってしまいますし、予算もあるにはあるけど、それほど大きくはない。つまり、彼女をV.I.P待遇はできないということは、お伝えしていました。お昼も簡単なパック弁当になるかもしれないし。ところが、彼女は『まったく問題ありません』と言ってくれたんです」
H&A:聖子さんの演技はとても自然でしたね。彼女自身みたいな雰囲気でした。
監督「とても自然でした。美樹のキャラクターを彼女なりに自分のものにしていますよね。彼女も美樹のキャラクターをとても気に入ってくれていて、まさに自分の言葉として発してくれていました。斎藤さんも聖子さんという大スターを前にしてかなり緊張していたのですが、彼女のおかげでうまくいったと思います。皆、彼女が大好きでした。真のプロフェッショナルですね」
H:素晴らしいですね。日本ではあまり演技を見る機会がないので。
監督「ここ数年は、コンサートはされているけど、演技はされていませんからね。年齢も超越していて、ほんとうに美しい方です。実は今日もこれから会うんですよ」(と、嬉しそう)
A:映画祭で映画をご覧になった方は、皆、聖子さんがよかったと言ってました。
監督「伝えておきますね」
出演者が全員集合。スチール撮影は写真家のレスリー・キー。
(c)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
マーク・リーさんのこと
A:叔父のウィーを演じたマーク・リーさんがとてもいい味を出しておられました。彼が出ているとシリアスな場面もちょっと明るくなります。起用されたいきさつを教えてください。
監督「私はマークをとても崇拝しています。マーク・リーはシンガポールが誇る才能ですね。ただ、1つだけ問題がある。ギャラがとても高いんです。だから『ちょっと助けてよ』ともちかけてみました。そしたら『いいよ。投資もしようか?』と。資金はすでに集まっていたので、投資はしてもらいませんでしたが、出演してもらいました(笑)。彼はシンガポールでは最高の俳優ですし、私はすごく好きなんですが、過剰にローカルな笑いもあるので、今回はちょっとトーンを考えないといけない場面もありました。特にヨーロッパでの反応はどうかと心配したのですが、気に入ってもらえました。皆、素晴らしいと言っていました」
A:あの役を演じられて、ご本人はどんな感想を持っておられましたか?
監督「とても楽しんでいましたね。出演したことを誇りに思ってくれています。彼も松田聖子さんの大ファンなので、彼女と初めて会った時は、ほんとうに失神しそうでしたよ(笑)。10代の頃は、部屋中に聖子さんのポスターが貼ってあったそうです(笑)」
ロケ地とそのほかのエピソード
A:高崎を日本での舞台に選ばれたのはなぜですか?
監督「日本のプロデューサーの橘さんと映画について話していた時、真人が育った場所は、大阪みたいな大都市ではなく、小さな町が似合うと思いました。高崎はまさにぴったりでした。それに、私は小さい頃から母と観音様を拝んでいるので、高崎には美しい観音像がありますよね。私にとってはそれも重要だったのです。あの自由の女神に匹敵するような、美しくて巨大な観音像、あれが決め手でした。田園風景も街並みも美しいし、真人の家のような小さい家の風景もしっくりきました」
H:真人の父は寡黙で実直で職人堅気ですが、あれは日本の父親像のイメージでしょうか?
監督「和夫の若い頃はとても活気に満ちています。それはフラッシュバックでわかります。しかし、妻が死んだ時、彼も一緒に死んだのです。彼は生きる意欲を失ってしまった。不幸なことに、彼の息子は妻のことを思い出させるんですね。それで、彼はつい距離を置いてしまう。そこで、別所さんが演じる叔父の明男が真人の父親代わりになりました。和夫がああいう風なのは、傷ついたからなのです」
シンガポールで母のメイリアンと出会った和夫は生き生きとしている
(c)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
A:高崎名物のだるまが出てきますが、和夫の店にあっただるまには目が入っていませんでした。でも、最後に真人が出したお店には、お母さんが持っていた片目のだるまに両目が入っていますね。
監督「(嬉しそうに)そうなんです」
A:シンガポールの有名なグルメスポット、ホーカーズのシーンで写真家のレスリー・キーさんが映っていましたが、他にもどなたか顔を出していますか?
監督「彼はこの映画のスチール写真を撮ってくれていました。それから、レスリーと一緒にいた男性は俳優のSHOGENです。(と、スマホで彼の写真を見せてくれる)ちょっとインド人ぽく見えるでしょ。ボリウッドに進出したらいいよと話してるんです(笑)」
どこかで見た顔だと思ったら、沖縄出身のモデル&俳優でそのルックスを生かして国際的にも活躍している、SHOGENこと尚玄さんでした。(続きを読む)
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