●次回作『KANO』の撮影現場で
Q:次回作『KANO』には大沢たかおさんが出ていると聞いていますが、日本人と仕事をする時に感じるやり方の違いや印象に残ることがあれば教えてください。
監督「『KANO』での大沢さんは、主役というよりも友情出演で、八田(台湾でダムを建設した八田與一)さんの役をやります。主役は永瀬正敏さんが演じるトレーナーです。大沢さんとのコミュニケーションは、芝居が少ないのでわりとやりやすかった。4日間、集中してやりました。彼もいろんなことを提案してくれました。
日本人には、仕事をする時と演技をする時のやり方に、一定の差があることに気づきました。日本人のスタッフチームと一緒に仕事をすると、ものすごく細かいことを全部決められてしまいます。1は1。2は2。何時から始まる、何をやる、と全部決まっているのです。でも、日本の役者は逆。演技をする時はアドリブが好きなようです。日本の役者さんはコミュニケーションをとることに、わりとこだわりがあるんですね。単なる演技者でなく、クリエイターとして何か新たなものを創作することに熱心。そこはとても特別ですね。
そういう考え方は、映画の視野を広げてくれたりと、時として素晴らしいものを持っていますが、監督は心臓を強くしていないといけません。それを受け入れて、考えて、よし、変えようと。これは要る、これは要らないと、監督は瞬時に判断しなくてはなりません。でも、そうすると現場は大変なんです(笑)。これは、おそらく国籍とは関係なく、役者一人一人の好みなのかもしれませんが(笑)」
●時間をかけた宣伝戦略と各国の反応
Q:台湾での公開時の感想や反応、中国や欧米での理解の仕方や反応の違いを教えてください。
監督「あまり差はありません。大同小異ですね。台湾では今回の日本と同じように完全版、上下の2部構成で公開しました。前編を観て後編を観ない人はいませんし、どちらか1本だけを観るということは滅多にありませんから、両方合わせると4時間半になる。そこで、どうやって観客を映画館に引き付けるか、我々は1~2年をかけて宣伝しました。
その宣伝方法というのは、実は映画の撮影段階から始めていて、観客に予防注射をしていきました。今こういう映画を撮っているけど、完成できないかもしれない。いや、完成しそうだ。映画はすごく長いけど、退屈しない、見応えのある素晴らしい映画になりそうだ、と少しずつ刷り込みをしました。メジャー系の映画ではありませんが、メジャー映画がとるパッケージ手法を導入して、強気で宣伝したのです。台湾で公開する時は、これが流行なんだとなるように。そして、3日間の公開で1億元の台湾ボックス成績という記録を作りました。
予防注射をして、強力な宣伝攻勢をかけたことで、公開された時にはすでに観客は心の準備ができていました。ああ、こういう映画だ、メジャー系の映画ではないけど、テーマは重いけれども、観客の価値観に挑戦する映画だと。観客の皆さんには意外と受け入れてもらえました。もちろん100%ではないけど、8割の観客は楽しんで観てくれました。
半分以上の観客、特に原住民の皆さんは映画にすっかり入り込んでしまい、自分たちのルーツがどこにあるのかを探し始めました。自分の父はヒーローだったかもしれない、自分の祖父は何かいいことをやったかもしれないと。そういう事はわりと記録に残っているのです。多くの皆さんは、映画の中の物語がどうのこうのではなく、自分のルーツを探し求めるようになりました。
中国以外、香港やアメリカ、ヨーロッパでも上映されました。国際版(154分の編集バージョン)でしたが、8割か9割は映画を評価してくれました」(次頁へ続く)
前後を読む 1 < 2 > 3 ▼記者会見 ▼ダーチン・インタビュー ▼映画紹介