『マッハ!』続く『トム・ヤン・クン!』でトニー・ジャーを世に送りだし、一躍タイ・アクション映画の凄さを世界に知らしめたのが、プラッチャヤー・ピンゲーオ監督。そして、4年の準備期間と2年の撮影期間をかけて完成させたのが、3作目となる『チョコレート・ファイター』です。その主人公を女性にした理由、そしてジージャーを起用した理由など、『チョコレート・ファイター』の誕生秘話を語ってくれました。
監督「前2作が成功した後、何か新しい映画を作りたいと思っていました。また、ファンからは女性アクションを作ってくれ、という声があがっていました。そこで、タイにいるムエタイ選手の中から、主演する女性を探し始めました。
小さなジージャーが大勢の男たちを倒していく姿は爽快
|
当初は、顔もタイ風の、大柄な女性を捜していました。そんな中、アクション監督のパンナー・リットグライから、ジージャーを紹介されました。彼女は『七人のマッハ!!!!!!!』のオーディションに来て、パンナーにとても気に入られたのですが、とても小さい役だったので彼はジージャーを出演させず、もっと大きな役で使えないか、と私に話を持ってきたのです。私もジージャーをとても気に入り、今回の企画が始まりました。
彼女は当時、自分でテコンドーの学校を開いていたのですが、そこを休んで、私たちのムエタイ、カンフー、スタント、ソード・アクションといったあらゆるアクションの訓練に参加することになりました。
ただ、1つ問題がありました。ジージャーはとても小柄で、筋肉隆々という体つきでもない。そんな彼女が何人もの男を倒していくことが、果たしてリアリティを持って受け入れられるのか?と思いました。説得力に欠けると思ったのです。そこで、特殊な能力を備えた自閉症の女の子、という設定を思いつきました。自閉症の中には、特殊な能力を持つ人がいますから。ジージャーの場合は、アクション映像を目で見ただけで瞬時に記憶し、体現できるという能力を備えています」
監督から見たジージャーは、どんな女の子なのでしょう?
監督「ジージャーは本当にやる気がある子ですが、やはり長時間アクションを続けているとキレも悪くなり、撮影しているとそれがよくわかります。そこで、私たちは撮影を中断するのですが、彼女は自分1人のためにスタッフ全体に迷惑をかけてしまって悪い、と思うんです。非常に頑張り屋でした。最終的には、彼女のやる気こそが、2年間におよぶ撮影を引っ張ってくれたと思います」
そして、日本を背景にした理由は?
監督「私自身がとても日本が好きだということ、そしてタイ人から見ると、ジージャーはとても日本的な顔立ちだということ、そこから、ジージャーは日本人のハーフという設定を思いつきました」
やはり、タイ人から見てもそうなんですね。しかし、その父親役として、まさか阿部寛が出演してくれるとは思ってもみなかったとか。快諾の返事が来た時は、飛び上がって喜んだそうです。その阿部寛も、怪我をしながら生身のアクションに挑戦しています。
監督「実は、阿部さんのアクションシーンについては、当初はご本人にやって頂く予定ではなかったのです。こちらでスタントマンを用意して、CGで顔だけはめ込むことを考えていました。ところが、スタントマンが阿部さんの代わりにアクションをやっているビデオを見て頂いたところ、阿部さんはすぐに全部できてしまったのです。普段はアクションの打ち合わせに何日かかけるのですが、到着した翌日にビデオを見て頂いたところ、練習と本番に、わずか1日しかかかりませんでした。スタントなしでこなして頂いた阿部さんのアクションは、とても素晴らしかったです」
『チョコレート・ファイター』はアクションも満載ですが、前2作よりドラマの要素も強くなっています。
監督「前の2作については、ストーリーとアクションとのバランスについて、とても辛口な意見もありました。そこで本作では、世界的に知られている自閉症という問題、そして誰にでも馴染みがある親子の問題を取り上げ、アクションともバランスの取れるストーリー展開を組み立てたのです。アクションばかりだと観客が飽きてしまいます。アクションをするに至った主人公には、悔しさや抑えつけているものがある。それを発散するかたちで、アクションにつながります。観客にも参加してもらう、そのためにはアクションに至るまでのドラマが絶対に必要なのです」
なるほど。アクションのためのアクションではなく、ドラマを際立たせるための必然性のあるアクションが大事。この意見は、著名なアクション系映画監督たちが皆、口を揃えているところでもあります。
そして、最後にうれしい発言がありました。
監督「実はまだストーリーも決まっていないんですが、『チョコレート・ファイター2』を作ろうと思っています。撮影はほとんど日本で行う予定です。阿部さんは撮影中も色々なアイディアを出してくださるので、ぜひストーリー段階から参加して頂きたいと思っています」
おお〜!素晴らしい。さらに「阿部さんのアクション部分を増やしたいと思っています」と言う監督に、側にいた阿部寛は「いやいや、アクションは…」と苦笑。でも、その後の父娘がどうなったか、期待してますよ!
(以上、来日時の公式インタビューより構成)
(c)2008 sahamongkolfilm international
続きを読む ▼舞台挨拶&イベント ジージャー < 阿部寛 < 監督 ▼作品紹介
|