アメリカから来た少女(美國女孩/American Girl)
story
2003年、冬。母(カリーナ・ラム)とロサンゼスルで暮らしていたファンイー(ケイトリン・ファン)とファンアン(オードリー・リン)の姉妹は、台湾へ戻って来る。母が乳がんになったのだ。空港へは仕事で台湾に残っていた父(カイザー・チュアン)が迎えに来た。
久しぶりに帰ったアパートはカビだらけ。テレビでは広東省で発生したSARSの猛威を伝えている。成績のよかったファンイーは名門校に編入できたが、制服があり髪も切らなければならなかった。
母は友人の医者(ボウイー・ツァン)がいる病院で2週間後に手術と決まった。母がいない間、父が料理をするが、卵炒飯にはファンアンの嫌いなケチャップがたっぷり。父はやさしく気を遣っていたが、娘たちはLAの暮らしが恋しい。
ファンイーは中国語の授業にも、体罰をする厳しい教師にも馴染めない。唯一、幼馴染のリン・スーティン(モリー・リン)だけがノートを貸してくれ、親しく接してくれた。だが、成績は落ちる一方。LAの親友ジェシーが恋しいし、大好きな乗馬もしたかった。
母の手術は成功するが、化学療法のせいで体調は思わしくなく、いつも死の恐怖にとりつかれていた。そのせいで夫婦喧嘩が絶えず、娘たちは不安になる。そんな中、父がファンイーの欲しがっていた自転車を買ってくれた。しかし、母のいらだちはつのるばかり。父は仕事で中国へ出張してしまう。
いろいろな出来事に疲れたファンイーは、台湾にある馬の牧場をパソコンで見つけ、ネットカフェに通ってブログに母への不満を書いた。それを読んだ教師が、ファンイーにスピーチコンテストを勧めるのだが…。
アジコのおすすめポイント:
アメリカから台湾へ帰国した13歳の少女の苦しみを、家族間のもつれた愛憎をからめて描く人間ドラマです。2003年、SARS(重症急性呼吸器症候群。当時は非定型生肺炎と呼ばれていました)が中華圏で猛威をふるっていた時代を背景に、アメリカでのびのびと育った少女が母の病気で台湾に帰国。慣れない学校生活、死の影に怯える母親のいらいらで傷つきながらも、なんとか自分を保とうとする姿を瑞々しく描いています。帰国子女のロアン・フォンイー監督が中学時代の自身を投影させ、見事な長編デビュー作品を作りあげました。製作総指揮はトム・リン。撮影監督はギリシャ出身でアジア圏でも活躍するヨルゴス・バルサミス。ほの暗く陰影の深い映像が美しく印象的です。母親を演じるのは香港映画界でも活躍するカリーナ・ラム。自分の病気に動揺して弱気になり、精神不安定になってしまう母親を体現しています。父親役はカイザー・チュアン。家族思いの普通のお父さん役は意外とチャーミング。主人公はこれが演技初経験となるケイトリン・ファンで、新人賞を多数獲得したのも納得の演技です。妹役は同じくバイリンガルのオードリー・リン。4人は撮影前から長い時間を一緒に過ごしたそうで、本物の家族のような親密さが醸し出されています。コロナ禍での撮影は制限も多かった模様。先の見えない不安な今だからこそ描けた2003年。多感な少女時代の心の軌跡を繊細に描いた本作は、台湾金馬奨で5冠を獲得。ぜひ劇場で味わってください。
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