ホテルアイリス(艾利絲旅館/Hotel Iris)
story
浜辺を彷徨う髪の長い娘。売店でラムネを飲み、目の前の離れ小島を眺める。潮が引くと橋が現れる。そこには大きな空き家があり、中はがらんとしている。机に残されていた鉛筆と古いノート。娘は浜辺に立つ父を思い浮かべる。鏡には自分が映っている。
雨の夜。浜辺の街にあるホテル・アイリスで女の悲鳴が響き渡る。フロントにいたマリ(ルシア)は、男(永瀬正敏)が売春婦に暴力をふるっている現場を目撃する。売春婦は逃げ出し、男はマリに金を渡して去っていった。
マリは祖父の残したホテルで母(菜葉菜)と暮らしている。雑用係のおばさん(パオ・チョンファン)は世間話が好きだが盗癖がある。酒飲みだった父(マー・ジーシャン)は、若い頃に殺されて亡くなった。犯人は捕まらなかったが、おばさんは親友のダンス教師が怪しいと言う。母は今、その男と付き合っている。
マリの毎日は退屈で、幼馴染のマリーに手紙を書くことが唯一の楽しみだった。そんなある日、市場へでかけたマリは、この前の男を見かける。後をつけて行くと、浜辺に出た。男はマリに気づき、先日の謝罪をして島への橋を渡って行く。そこに住んでいるらしい。マリは男に手を振った。
数日後、男から手紙が届き、二人は公園で話をする。彼はロシア語の翻訳家だった。その日は渡し舟で帰り、マリはまた手を振った。その夜、マリは父の夢を見る。父は酔って帰ると、いつもマリの部屋へ入ってきた。大好きな父。父の死後、マリは母と目を合わせることがない。待つものがなくなったマリの前に、彼が現れた。
また手紙が届き、二人はレストランにでかけるが、予約が取れていなかった。店は満席で対応も冷たい。「侮辱するな!」怒る男。彼はマリを自宅に誘う。二人は売店の男(リー・カンション)が運転する渡し舟で島へ渡る…。
アジコのおすすめポイント:
海辺のリゾート地。祖父が残した小さなホテルで働く若い娘が、離れ小島で暮らす中年の翻訳家と出会い、いつしか彼の家で禁断の世界へ入っていく…。夢と現実の境が曖昧で幻想的なエロティックロマンスです。原作は芥川賞作家、小川洋子さんの「ホテル・アイリス」。17歳の少女と初老の男、その甥との関係を、大胆にアレンジ。美しい金門島の浜辺を無国籍なリゾート地にしつらえ、ホテルアイリスと男の家、その間にある渡し舟の売店に生と死を重ね合わせて描いています。果たして、この世界のどこからどこまでが現実なのか、あなたは見抜けるでしょうか?!
監督は『黒四角』の奥原浩志。金門島旅行でモデルとなった民宿と出会ったのがきっかけとなり、一度は諦めていた企画が実現しました。主演は台湾映画界とも縁が深い永瀬正敏と、本作で映画デビューを飾った台湾の新星ルシア(陸夏)。清純な顔と欲望に突き動かされる女の顔を使い分け、大胆な演技に挑戦しています。(演技指導は蔭山征彦さん!)重要な父親役は『KANO 1931海の向こうの甲子園』のマー・ジーシャン。さらに、監督のリクエストでリー・カンションが登場。浜辺の売店で渡し舟をやる男を独特の存在感で演じます。母親役は、『夕方のおともだち』など出演作が続く菜葉菜。翻訳家の甥役をエキゾチックな風貌の寛一郎が演じ、彼もまた重要なキーマンとなります。ユー・ジンピン(『少年の君』)の映像も美しい本作。様々な解釈の余地を残しているので、何度も観たくなることでしょう。
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