羊飼いと風船(気球/Balloon)
story
チベットの草原地帯。幼い兄弟が楕円形の白い風船を膨らませて遊んでいる。そばにいるお祖父ちゃんが二人を見守り、父親のタルギュ(ジンバ)がバイクに乗ってやってきた。「お前らが盗んだのか」「盗んでないよ。枕の下にあったんだ」「二度とするな」怒った父は風船を割り、子どもたちを追いかける。羊の群れが散らばっていった。
タルギュが立派な種羊をバイクに乗せて帰って来る。種付けをするため、隣村の友人から借りてきたのだ。「あんたみたい」恥ずかしそうに笑う母のドルカル(ソナム・ワンモ)。タルギュは雌羊を1頭捕まえる。町の学校の寄宿舎にいる長男ジャムヤンの学費にするために、売るのだ。
尼僧の格好をしたドルカルの妹シャンチュ(ヤンシクツォ)が、ジャムヤンを迎えに青海湖チベット中学校にいた。そこに、元恋人のタクプンジャが現れ驚く。彼はこの学校で教師となっていた。タクプンジャは「僕が書いた本だ。よかったら読んで」とシャンチュに本を渡した。『風船』と書かれた本の表紙をなでるシャンチュ。
ドルカルは湖東診療所を訪れ、女先生はいないかと尋ねた。往診から帰ってきた女先生はドルカルと部屋の外で話をした。「避妊手術をしたい」「コンドームは?」「子どもたちが風船にしちゃって…」来月、手術をすることにして、女先生は自分のコンドームを1個渡した。
シャンチュが持ち帰った本をドルカルは燃やそうとする。「誰のせいでこうなったのよ?」だが、シャンチュは炉から素手で本を拾いあげる。そこには、二人の過去のことが書かれていたのだ。子どもたちはドルカルが隠していたコンドームを見つけ、友達のドルジュの笛と交換した。
タルギュがジャムヤンと共に種羊を返しに行った日、祖父が突然亡くなる。葬儀の後、タルギュとジャムヤンは高僧を訪ね、祖父の転生について尋ねた。「僧侶を招いてお経を唱えると、家族に転生する」その頃、ドルカルは妊娠して動揺していた…。
アジコのおすすめポイント:
美しい大草原で昔ながらの牧羊をしながら暮らすチベット民族の家族の物語です。時代と共に移り変わるライフスタイルを、3世代同居の家族で描き、自然と共に生きる人々の暮らしぶりが丁寧に描かれます。同時に、時代と共に変化していく女性の自我や価値観、葛藤も描かれており、女性映画として観ることもできます。尼僧になった妹の過去の恋と本、精力的な夫と子宝に恵まれた姉。しかし、輪廻転生という伝統的な考え方と4人目を生むと罰金になる現実は相入れず、家族に綻びができてしまいます。生と性、聖と俗、教育を受けさせたい親と牧羊を継ぎたい息子、様々な問題が提示されたまま、風船は空高く飛んで行ってしまいます。監督は東京フィルメックスの常連で本作で3度目の作品賞に輝いたペマ・ツェテン。主演は舞台女優として活躍するソナム・ワンモと野生的な魅力で日本でも人気のジンパ。いよいよ日本で初の劇場公開となったペマ・ツェテンの世界をご堪能ください。
*特集上映「映画で見る現代チベット」(3/13-4/2・岩波ホール)で、ペマ・ツェテン監督の『タルロ』『オールド・ドッグ』も上映予定です。
|