ある船頭の話
(They Say Nothing Stays the Same)
story
明治後期から大正を思わせる時代。美しい緑豊かない山間に流れる、とある川。船頭のトイチ(柄本 明)は、川辺の質素な小屋に一人で住み、村と町を繋ぐための川の渡しを生業にしていた。様々な事情を持つ人たちがトイチの舟に乗ってくる。毎朝舟を洗い、日々黙々と舟を漕ぎ、慎ましく静かな生活を送っていた。
こんな山奥の村にも、文明開化の波が押し寄せていた。川上では煉瓦造りの大きな橋が建設されている。「橋ができれば、村と町の行き来が容易になる」と村の人々は完成を心待ちにし、トイチも「そうですね」と笑顔で返すが、内心は複雑だ。現場に向かうため舟に乗る建築関係の男(伊原剛志)は嫌味を言い、いつも舟を急がせた。
そんな中、トイチを慕う若者の源三(村上虹郎)だけは「あんな橋、俺がぶっ壊してやる」と血気盛んだ。源三は郵便や荷物を届ける仕事で川を毎日往復し、日銭を稼いでいる。駄賃代わりにもらった芋などを川原で焼いて、トイチと一緒に食事をすることもしばしばだった。
ある日、客の商人(村上 淳)が川上の村で起こった一家惨殺事件の話をしていた。少女だけが見つかっていないという。そんな折、トイチの舟が何かにぶつかる。それは流れてきた少女(川島鈴遥)だった。舟に引き上げて、小屋に寝かせるトイチ。かすかだが息はあるようだ。トイチは源三と共に薬を飲ませ、少女を介抱する…。
アジコのおすすめポイント:
オダギリ ジョーの見事な監督デビュー作です。もともと監督業にも興味を持っていた彼が10年前に書いたオリジナルストーリーを、柄本 明主演で蘇らせました。そのきっかけとなったのが、撮影監督を務めたクリストファー・ドイル。彼が監督した『宵闇真珠』で二人は出会い「ジョーが監督するなら、俺がカメラをやる」と約束。そこからこの映画が動き出したのでした。時代の狭間で、大自然の中に溶け込み、自然のリズムと共に生きていく人々と、利便性や富を追求する代わりに大切なものを失っていく人々を描き、「ほんとうに人間らしい生き方とは何か」を問いかけます。水、川、森、季節をじっくりと映し出すクリストファー・ドイルの映像は美しく、ゆったりとした時間の流れも心地よく感じられます。舟の乗客として登場する個性的な豪華キャストも自然体で、映像に溶け込んでいます。音楽はアルメニアのジャズ・ピアニスト、ティグラン・ハマシアン。衣装はワダエミ。オダギリ ジョーならではのこだわりに彩られた、素朴にして雄弁な極上の作品をご堪能ください。
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