人生タクシー(Taxi)
story
テヘランの街を走る黄色いタクシー。運転手がダッシュボードに置いたカメラを乗客の方へ向ける。「盗難防止だろ」興味を持って話しかける男は自称路上強盗。男が主張する死刑制度に眉をひそめる相乗り中の婦人は教師だ。二人が降りた後に乗ってきたのは、海賊版DVDレンタルショップの経営者。彼はすぐ運転手に気づいた。「パナヒ監督でしょ?知ってますよ。撮影してるんですか?」
タクシーを運転するのは、ジャファル・パナヒ監督だった。男は監督の家にもDVDを届けていた。しばらくすると、交通事故に遭って怪我をしている男を病院へ運ぶことに。妻は不安で泣き叫んでいる。男はカメラに気づき、「今のうちに妻に遺言を残したい」と監督に頼み込む。監督は後で映像をコピーして渡すと約束する。
二人を病院で降ろすと、監督志望の大学生が乗り込んできた。金魚鉢を抱えた老婦人たちは、車内で金魚鉢が割れてしまい一騒動に。途中で小学生の姪をひろう監督。彼女は国内で上映可能な映画を撮影するため、小型カメラで撮影中だ。他にも、強盗に襲われた裕福な幼なじみ、停職処分を受けた女性弁護士など、個性豊かな乗客たちが乗り込んでくる。
アジコのおすすめポイント:
『オフサイド・ガールズ』(06)以降、政治的な理由で2010年より20年間の映画監督禁止令を受けているジャファル・パナヒ監督が、またしてもユニークな作品を届けてくれました。テヘランに軟禁されているとはいえ、自宅で撮影した『これは映画ではない』(11年)、別荘で撮影した『閉ざされたカーテン』(13年)と、意欲的な創作活動を続けるパナヒ監督。本作も車の中でこっそり撮影し、映画にしてしまうというお見事な手腕で、いずれもカンヌ、ベルリンなどの国際映画祭で受賞を果たしています。「私はどんな状況でも映画を作り続け、そうする事で敬意を表明し、生きている実感を得るのだ」と語る監督の、映画への愛が溢れた作品です。果たして全部ドキュメンタリーなのか、それとも演出なのかはご想像にお任せ。衝撃のラストまでお楽しみください。
|