シアター・プノンペン(The Last Reel)
story
プノンペンに暮らす女子大生ソポン(マー・リネット)は、病の母(ディ・サヴェット)と厳しい軍人の父(トゥン・ソーピー)、口うるさい弟との息苦しい生活にうんざり。授業をさぼってはボーイフレンドのベスナ(ルオ・モニー)たちと遊びに明け暮れていた。ある夜、街中でベスナとはぐれたソポンは、バイクの駐車場として使われている廃墟の映画館にたどり着く。
古ぼけたスクリーンには自分とそっくりの少女が映し出されていた。驚くソポン。壁には古いポスターが貼ってある。主演女優はソテア(マー・リネット二役)。ソポンの母だ。クメール王国を舞台にしたおとぎ話のようなラブストーリーに、ソポンは惹き込まれていく。この映画『長い家路』は、クメール・ルージュがカンボジアを支配する前年の1974年に作られた未公開作だった。
映画館の主人で映写技士のソカ(ソク・ソトゥン)の話によれば、内戦の混乱で最終巻が紛失し、物語の結末を観ることができないという。この映画に執着するソカを見て、ソポンはソカこそが映画の監督に違いないと思い、彼のもとで映画の最後を撮り直そうと提案する。一方、ソカもソテアに生き写しのソポンを見て、かつて愛した人への想いを巡らせていた。
ソポンはベスナにも協力してもらい、大学の映画仲間を誘ってロケ地へと向かう。結末は2通りが予想できた。だが、ロケが進むにつれて、ソカは過去を思い出して撮影に集中できず、ついに姿を消してしまう。やむなく、ソポンは結末に自分の考えを取り入れて映画を撮り終えた。ところがプノンペンに戻ると、シアター・プノンペンは開発業者に売り払われ、閉鎖されていた。
やがて、ソポンはソカと母から思いがけない真実を聞かされることになる…。
●アジコのおすすめポイント:
カンボジアの女性監督ソト・クォーリーカーの長編デビュー作です。カンボジアの歴史に暗い影を落とすクメール・ルージュ(中国の文革に刺激されたカンボジア共産党による粛正で市民の1/4が命を落とした)の時代を、正面からではなく、現代に生きる人々の背景として描き、事件が起こした悲劇を浮かびあがらせています。主人公と母親の若い時代を演じるのは、本作が初主演となったマリー・リネット。母親役は60年代から活躍した往年のトップ女優ディ・サヴェットが、大女優の貫禄で演じています。恋人役のルオ・モニーは劇中映画『長い家路』の王子様役も演じ、まったく違う印象を残します。最後の一巻に秘められた悲しい真実とは…劇場でご堪能ください。尚、ソト・クォーリーカー監督は昨年の東京国際映画祭で発表された新プロジェクト「アジア三面鏡」の3人の監督に選出されており、プノンペンにある「日本橋」を作った日本人の物語を10月にお披露目予定です。
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