桃 (タオ) さんのしあわせ
(桃姐/A Simple Life)
story
桃(タオ)さんこと鐘春桃(チョン・チュンタオ)は、広東省生まれ。出生後、養子に出されたが、先の大戦中に養父が死に、使用人として梁(リョン)家に預けられた。以後13歳から60年間、4代にわたり梁家に仕えた。
雑踏の中、大きな買い物袋を両手に抱え、ゆっくりと歩く桃さん(ディニー・イップ)。袋の中身は今日の夕飯の食材だ。家の中は綺麗に整頓され、埃一つない。食卓の上には質素だが手の込んだ料理が並び、それらはロジャー(アンディ・ラウ)の口に次々と運ばれる。桃さんは全てを熟知しており、栄養バランスを考慮した料理を彼に提供する。
ロジャーは、中国大陸と香港を行き来するやり手の映画プロデューサー。映画制作の資金繰りがうまくいかなくなれば、スポンサーの前で映画監督ら(ツイ・ハーク、サモ・ハン)と結託してひと芝居打ち、予算の問題を解決するなど、そつなく仕事をこなし、周りからの人望は厚い。
ある日、いつものように打ち合わせを終えて自宅に戻ると、鍵が閉まったままでベルを鳴らしても誰も出てこない。桃さんが中で倒れていたのだ。脳卒中で入院した桃さんは、幸い数日で退院できたが、中風が残るだろうと言われていた。「もう仕事はできないから辞める」と告げられたロジャーは、彼女の希望に従って老人ホームを探す。
数件目の老人ホームのオーナーは、かつての仕事仲間「バッタ」(アンソニー・ウォン)だった。彼はホームの経営で事業を成長させており、昔なじみのロジャーの希望に沿う施設を手配してくれた。
ホーム入居初日。「個室の人は少ないのよ」と、主任のチョイ(チン・ハイルー)に案内された部屋は、決して綺麗なものではなく、隣りとは衝立で仕切られていた。今までロジャーと二人で暮らしてきた桃さんは環境の違いに戸惑い、ため息をつく。翌朝、ロジャーが訪ねてきた…。
●アジコのおすすめポイント:
香港金像奨、台湾金馬奨はもとより、ヴェネチア国際映画祭で主演女優賞にも輝いたアン・ホイ監督の大傑作『桃姐』が、邦題『桃(タオ)さんのしあわせ』となって、ついに日本公開です。香港の映画プロデューサー、ロジャー・リーの実体験を映画化したのは、味わい深い人間ドラマの名匠アン・ホイ監督。歌手であり女優でもあるディニー・イップが本作で久々にカムバックし、実年齢より上の桃(タオ)さんを老けメイクで見事に演じています。主のロジャー役は、これまでにディニー・イップと何度か親子役を演じてきたアンディ・ラウ。主演作が多いのに、どんな役柄にも溶け込んでしまうアンディはすごい! 時代と共に変化する香港映画界や、香港の老人事情もさらりと織り込まれており、チョン・プイなど老人ホームの面々も興味深いです。個人的にはシュウ・ケイ監督の『ソウル』(86年)で共演したディニー・イップとエレイン・チン(『ロスト・イン・北京』)の、スクリーンでの活躍を同じ時期に拝めるのも眼福。チン・ハイルーはすっかり大人になりました。
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