ブンミおじさんの森
(Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives)
story
タイ東北部のある村。腎臓の病に冒されたブンミおじさん(タナパット・サーイセイマー)に呼ばれ、ジェン(ジェンチラー・ポンパス)と息子のトン(サックダー・ケァウブアディー)がやって来る。ジェンはブンミの死んだ妻の妹。死期を悟ったブンミは、森の管理をジェンに任せようとしていた。家で腹膜透析をするブンミを手伝うのは、ラオスから渡ってきた使用人のジャーイ(サムット・クウカサン)だ。
夜。ブンミとジェン、トンがテラスで夕食の食卓を囲んでいる。あたりは夜の闇に包まれ、聞こえるのは虫の音だけ。食事をしながら話をしていると、トンの隣の席にふと女性の姿が現れる。トンは驚いて席を立ち、ブンミとジェンが声をかける。それは19年前に死んだ妻のフェイ(ナッタカーン・アパイウォン)だった。彼女の姿は42歳の時のまま。ブンミは嬉しそうに微笑む。
物音がして、今度は黒いものが森からテラスへの階段を上がって来た。「母さん」全身を長い毛で覆われた目の赤いそれが発したのは、12年前に姿を消して行方がわからなくなっていた息子ブンソン(チィラサック・クンホン)の声だ。ブンソンは写真に写った不思議な生き物を探して森に入り、いつしか猿の精霊の仲間になってしまったという。
ブンミは愛する妻と息子に、自分が撮った写真を見せる。妻の願いを叶えて作った養蜂場、フェイのお葬式…。「電気が明るいから、よく見えない」というブンソンのため、トンは灯りを消し、自分たちのために小さな灯りを持って来る。
翌日、ブンミはジェンを養蜂場へ連れていく。緑広がる農園には陽が降り注ぎ、タマリンドの樹が葉を広げている。足のわるいジェンには少し遠い道だが、ラオスから来た労働者たちに暖かく迎えられる。フランス語を話すものもいる。ブンミに誘われて蜂蜜を舐めると、トウモロコシとタマリンドの味がして、とても美味しい。
小さな小屋で休み、ブンミは腹膜透析を始める。そして、自分の病気はカルマだと話すのだった…。
●アジコのおすすめポイント:
タイ東北部出身のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が、故郷と失われていくものへのオマージュを散りばめて紡ぎあげたファンタジー作品。モダンアート界のアーティストとしても活躍する監督ならではの、豊富なイマジネーションと変幻自在な表現力に彩られたプリミティブでどこか懐かしい作品です。特に本作にはユーモラスな場面もあり、親しみやすい作風となっています。本作を「現代的な風景の中には居場所のなくなった古いスタイルの象徴」と語る監督。その対比は最後の場面で感じることができるでしょう。難解そうで意外とお茶目だったアピチャッポン監督へのインタビューを、昨年の東京フィルメックスでの来日時にさせていただいたので、こちらもお楽しみください。
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