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asicro interview 84

更新日:2020.5.13

新作は2本同時撮影中

Q:今は2本の作品を撮っているそうですね。

 監督「2本の作品を同時進行で撮っています。これは初めての試みです。当初は大きな作品を1本撮るつもりだったのですが、複雑で長いストーリーなので2本に分けた方が観客に分かりやすいと思い、2本にすることにしました」

Q:テーマはずばり「死」ですね。死ぬ前と死んだ後の物語ということですが。

 監督「1本は知的なディスカッションで、哲学的なパートが描かれます。プラトンやソクラテスがやったようなものですね。もう1本は実際のゴーストストーリーで、僕が知る限り、そういう視点からの作品は今までにないと思います。なので、今はまだあまり詳しくは話せませんが、関係者はかなり驚いています。アドニスの3年ぶりの作品なので、期待して長い間待っていてくれたファンに、2本の映画をお見せしたいというのもあります」

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Q:いろんな国で撮影しているのですか?

 監督「日本、台湾、スペイン、タイ、そして香港です。この後で、スペインへ行きます」

Q:スペインはどこで?

 監督「バルセロナです。台湾での撮影が終わったばかりで、これからスペインで撮影です。台湾は日本の後で撮影しました。日本では淡路島と富士ですね。山中湖の近くです」

Q:死のイメージということは、樹海ですか?

 監督「そうです。樹海で撮影しました」

Q:完成はいつですか?

 監督「撮影は多分、来月末(11月)には終わると思いますが、その後の後期製作に6ヶ月はかかるので、1年後くらいですね。公開できるのは、再来年の真ん中くらいでしょう」

Q:前にお伺いした、アドニスさんの『ユートピア』の後の作品(『三十儿立/Thirty Years of Adonis』)はどうなったのですか? 日本では未公開ですが。

 監督「この作品はヨーロッパとアメリカが一番成功したと思います。映画館でもやりましたし、DVDでもこのジャンルではトップセールスになりました」

Q:日本では観られなくて残念です。ノラ・ミャオさんも出ていたので、気になっていました。新作にも、アドニスさん以外でどなたか出ていますか?

 監督「過去のアドニスの作品から何人かと、『アンフェタミン』に出ていたサイモン・タン(カフカのお兄さん役の俳優さん)が重要なシェフ役で出ています。その他に有名な人では、アマンダ・リーですね。彼女は淡路島でかなりセンセーショナルな演技をしています」

Q:新作は同時公開ですか? それとも1本ずつ?

 監督「配給の意向にもよりますが、ファンを驚かせたいし、マーケット的にも同時に発表したいと思っています」

監督にとってヌードはトレードマーク

Q:今回も裸の人がたくさん出てくるのですか?

 監督「裸は僕の映画ではほとんど必須ですね」

Q:そうでない映画も撮られたらどうかなとも思うのですが…。

 監督「皆、ビックリすると思うけど、多分、僕のファンは映画を間違えたと思うでしょうね(笑)。面白い話があります。僕の映画は中国でも観られますが、裸やセックスシーンはカットされています。オンラインでも観られますが、20分くらいになってしまうので、正確には僕の映画ではありません(笑)。クレジットはスカッドフィルムになってますけどね」

Q:監督は人間の感情やドラマを描くのが上手いので、たとえばヌードシーンを1/3くらいにして撮るのはいかがですか?

 監督「有難い提案ですが、僕にとってヌードはトレードマークなので、それを取ってしまうと自分の映画ではなくなってしまいます。ヌードのない映画は他の人も撮っているので、それは外せません。欧米ではヌードやセクシーなシーンにも編集が入りませんし、ごく普通の映画なんですが、日本はまだそこまではいっていませんね」

  あえて愚問をしてみたのですが、やはり撃沈しました。

Q:日本で撮りたいとおっしゃっていた映画はどうなっていますか?

 監督「いつもアイデアは持っていますし、望んでいます。市場を掘り起こしてくれるような、日本での脚本家や俳優、女優が見つかれば可能かもしれません。僕がもっと日本で人気があればできるでしょう。例えばアドニスですが、彼はタイでとても人気があります。今回の新作ですが、タイで撮影したりタイの俳優を起用しているのは、そういったマーケットを意識しているからです。日本ではそこまでいっていませんが、それでもやるかもしれません」

香港情勢について

 20年前にオーストラリア籍を取得し、世界中を飛び回って撮影しているスカッド監督ですが、やはり出発点は香港です。インタビュー当時の昨年は、過激化する香港の若者たちのデモの様子が連日のように報道されていました。監督の目には、今の香港はどのように映っているのか?最後に質問してみました。

Q:今の香港の状況をどう思っていらっしゃいますか?

 監督「香港の状況については様々な見方があります。経済的な問題と言う人もいれば、政治的問題と言う人もいる。でも、僕は世代的な問題だと思っています。想像してみてください。中国政府は香港は50年間は変わらないと約束しました。そして22年が経ち、残りは28年です。僕たちのような40代以降の人たちは、すでに引退しているけど、現代の若者、ストリートにいる子どもたち、13歳や14歳の子供たちにとっては、28年後と言うと40歳くらい。人生で最も充実した時期になるわけです。その時期に、変化に直面するわけです。

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 ではなぜ、彼らは闘っているのか。僕にとってはこれは香港政府の問題ではなく、中国政府の問題なのですが、アジアは大体同じような状況にあります。政府は年寄りが操っているのです。40、50代の多くは、60代、70代の人たちの利益を守るために働いています。そして、彼らは若者を無視しています。こういった政府は、若者に支持されません。香港の場合は100%そうでしょう。30代以下の若者たちは100%、今の香港政府と中国政府に嫌気がさしています。信用していません。

 これは東洋と西洋にとっても重要な違いだと思います。西洋の場合、いつも国が若者をサポートし励ましています。未来は彼らのものだからです。そうして、国が前進していきます。しかし、アジアの多くの国では権力者の利益を守ってばかりで、若者は無視されている。だから、僕たちは決して前へ進めないのです。

 しかしなんと言っても、未来は純粋で無垢な若者である彼らのものです。立場上、よくこの質問をされますが、僕の答えは簡単です。僕は彼らの味方ではあるけれども、これは彼らの問題であって、彼らの闘いであり、僕とは関係がない。この問題はいつまで続くかと、よくアメリカで尋ねられますが、結論はまだわかりません。若者たちが納得するまで、としか言えません。

 もう1つ言っておきたいのは、香港警察ですね。彼らの行いは酷いものです。最近の調査で、香港のすべての階級の人々の50%以上が10点中0の評価になっています。半分以上がですよ。70%以上の人々は警察は解散しろと言っているのです」

Q:難しい問題ですね。大好きな香港が壊れていくようで悲しいです。

 監督「そうなんです。若者たちを見ているだけで、理由はなくとも、私たち皆の心が傷つくのです。なんらかの期待を抱きたくなりますが、民主主義で選ばれた政府ではないので、共産主義の軍事力にはかないません」

 この問題については、昨年12月に舞台挨拶で来日したアンソニー・ウォン(黄秋生)も語っていましたが、スカッド監督のご意見も厳しく興味深いものでした。今は世界中がコロナ禍にあり、この問題への注目も薄れていますが、コロナが沈静化しつつある香港では再びデモや集会が始まっており、一方でコロナを理由にデモや集会が禁じられて弾圧も強まっているようです。今後も注意深く見守っていきたいと思います。

 さて、当初はDVDリリースに合わせてのご紹介予定だったのですが、諸事情により、ご紹介がすっかり遅れてしまいました。申し訳ありません。しかしながら今は、当時では思いもよらなかった緊急事態宣言下。そんな今だからこそ、普段は観る機会のない作品に触れることができるチャンスです。レンタル版もありますし、今はオンライン観賞も可能です。中文や英語字幕でよければ、メイキング付きの無修正版は藝行者 Artopianから入手することもできます。スカッド監督のファンはもとより、このインタビューで興味を持っていただけた方は、ぜひこの機会にスカッド監督の初々しい作品『シティ・ウィズアウト・ベースボール』と『アンフェタミン』をご覧ください。

(2019年10月30日 東京アメリカンクラブにて単独インタビュー)
*取材協力:ミューズ・プランニング/イク・モハメッド(ジョルト)


シティ・ウィズアウト・ベースボール < アンフェタミン < 新作と香港

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profile
SCUD/スカッド
雲翔/スカッド・ワン


1967年3月20日、廣州市生れ。13歳の時、両親、弟と共に香港へ移住。生活のため働きながら勉強するが、進学を諦めてIT業界へ就職。20年後には独立し、国際的企業などで活躍する。

*国民党員だった祖父は内乱時に家族を残して台湾へ渡り、73年に高雄で病没。生前に祖母や家族たちと再会することはなかったそうだ。

2年後、すべてを捨ててオーストラリアへ移住。かねてから夢だった芸術に関わる仕事を始めるため、香港で「藝行者獨立電影公司」(Artwalker Limited)を設立。映画製作を始める。

08年にローレンス・ラウと共同監督した『シティ・ウィズアウト・ベースボール』で監督デビュー。一躍、注目される。続く『永久居留』(09)『アンフェタミン』(10)『愛很爛』(11)、『ボヤージュ』(14)は世界の映画祭でも上映された。
filmography
シティ・ウィズアウト・ベースボール(08)
*台湾中国映画評論家協会
 08年度十大中国語映画
*香港映画評論家学会
 08年度推薦映画
永久居留(09)
*香港国際映画祭開幕作品
アンフェタミン(10)
*ベルリン映画祭コンペ作品
*テディベア賞コンペ作品
*香港国際映画祭閉幕作品
*関西クィア映画祭にて上映
愛很爛(11)
ボヤージュ(14)
*シカゴ国際映画祭
 芸術成就賞
ユートピア(16)
三十儿立(17)
関連リンク
2007年のインタビュー
日本公式サイト(工事中)
藝行者 Artopian
監督のFacebook
*監督の近況がわかります。監督も今はオーストラリアに留まっているようです。
その他の作品リンク

「永久居留」

永久居留
Permanent Residence

(2009)


「愛很燗」

愛很燗
Love Actually...Sucks!

(2010)


「ボヤージュ」

ボヤージュ/Voyage

(2010)


「ユートピア」

ユートピア/Utopia

(2010)