これは英語の授業で、小さな7D(キャノン製のデジカメ)のカメラで撮っています。他にフォーカスしている機材は何もありません。カメラマンはいつでもフォーカスして撮れる状態で、照明もありません。先生がやって来て、カメラマンが後を着いて来る。そして、起こったことが撮影され、それがそのまま映画になりました。だから、面白いのです。『あなたのセリフはわかってますよね?』という撮り方ではありません。
もし私が今、これからあなたがする質問がわかっていたら、私はあまり興味が持てません。あなたも私の答えがわかっていたら、あまり興味が持てませんよね? 一番興味を持たせ続ける方法は、先がわからないこと。だから、監督をしていても、とても楽しめました。でなければ、面白くないですよね。この役者にこのセリフを言わせ、次の役者にこのセリフを言わせ、さあカメラで撮影して…そういうのは退屈。何か新しいマジックが生まれるべきなのです」
この説明には深く納得。ということは、現場での即興やハプニングがカメラに写し撮られていったようです。
Q:そうすると、子どもたちの反応によって変わっていった部分もあるのですか?
監督「まさに、その通り。起きていることに従っていきました。パルソーは金曜日に歯が2本抜けたので、土曜日にそれを撮影しました。あの少年は両親がいないので、抜けた小さな歯を見せる人がいない。まず友達に見せますが、彼の寂しさはまだ隠されていて、映画の最後までわかりません」
Q:そういう境遇の設定は、本人にはわかっていたの?(と、演じたパルソーくんに質問を振ってみました)
パルソー「撮影中は、スタンリーがどういう境遇なのか知らなかった。言われていたのは『食べ物を持って行けないので、他の人の食べ物を食べなさい』ということと、友だちや先生以外は誰も面倒をみてくれる人がいない、ということ。友だちはたくさんいるけれど、誰もかまってくれないと言われてた。ワークショップでは、さっきパパが言った話と同じで、シーンを撮る時に5人がいるとすると、僕たちを集めて『先生が入って来て、理科を教えるよ』と言われる。そして『スタンリー、先生が何か質問をするので、それに答えなさい』と、それだけ。それから何が起こるかはわからないんだ」
M:市場で喧嘩したという話もパルソーくんが作ったの?
パルソー「そうだよ!」
●パルソー君が語る演技のこと
Q:小さい頃から短編に出ていたそうだけど、何歳くらいから演技を始めたの?
パルソー「4歳半くらい」
監督「アシュマという別の学校のワークショップに参加していた時に、短編映画に出ました」
Q:最初から演技に興味があったの?
パルソー「うん。最初から興味があったよ。演技をしてるとすごく居心地がいいんだ。それから、パパのワークショップに通って、だんだん演技がうまくなり、この映画をやることになったんだ。だから、僕は演技がしたいんだと思う」
Q:今回の映画は、短編がつながって長編になったという感じ?
パルソー「そんな感じでもある。スタンリーの前に、アシュマというワークショップで短編を1つ撮っていて、撮影チームは全部子どもだった。音声も子ども、カメラマンも子ども、俳優も全部子どもで、年長の16か17歳の学生が監督。その撮影はパパと同じで、1日に1時間から3時間だった。子どもが監督しているし、子どもはすぐに疲れるからね。1日に1時間から3時間だったけど、すごく楽しかったよ。その時はスタンダードな映画の撮り方だったから、厳密にはワークショップじゃないけど、短い間、映画を撮る現場にいたんだ」
と、一生懸命、話している様子は、まるでスタンリーそのもの。思わず「スタンリーみたいね」と言うと「そう、僕だよ!」とパルソーくん。ここで、今度は退屈してきたのか、疲れのせいか、うとうとしてきた監督に質問です。
●子どもの映画にこだわる理由
Q:子どもにこだわった映画を撮っておられる理由は何ですか?
監督「子どものことが、充分に伝えられていないと思うからです。小道具みたいに扱われていることが多いですね。子どもを中心に据えてきちんと描いている映画は少ない。ただ、ワールドシネマで見ると、子どもを扱った素晴らしい作品も存在します。黒澤の『どですかでん』のように。あれは、障害のある少年をほんとうに愛情を持って描いた映画です。
私は、肉体的または精神的に障害を持った子どもにもずっと関心を寄せてきました。そういう子どもたちのために、アートシアター・シネマワークショップを開いてきました。彼らにとって、表現手段を学ぶことができるからです。映画監督になるためではありません。彼らにも、見て感じたことを表現する権利があるのです。そういう子どもたちと過ごすことは、私にとっても自分を豊かにしてくれる時間でした。
おかげで、黒澤明監督が体験した子ども時代に基づく映画の脚本を書く気になりました。そして、学習障害を持つ子どもを取り巻く教育状況の問題を提議することに繋がった。その映画が『地上の星』(主演は『きっと、うまくいく』のアーミル・カーン)です。私はこの映画のプロデューサーではありませんでした。もともと、子どもが主人公の映画だったのですが、撮影過程でそうではなくなってきました。そして彼は109日間、毎日12時間以上も撮影しなくてはなりませんでした。
そこで、次の映画では私がプロデューサーになろうと決めたのです。そうすれば、自分でルールを決められますから。子どもの映画を作るのだから、子どもたちから子ども時代を奪いたくないのです。だから、私のワークショップは休日の土曜日に行っています。そうすると、1年以上やっても問題ありません。
私は今、子ども映画協会の会長としてインドで法律と闘っています。政府系の機関なので、以前は外側で闘ってきましたが、今は内側から制度を変えることができる。メディアで働く子どもたちの労働時間に規制を設けるため、法律を整備します。そうしないと、子どもの労働問題が続いてしまいますからね」
M:いつから、会長になられたのですか?
監督「昨年の12月です。半年前ですね」(次頁へ続く)
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