A「では、6人で作ってみてよかったことはありますか?」
ディアオ「もし一人の好みを取り入れたら、偏った映画になる可能性もあったと思います。例えば役者に演技をさせる場合、抑えた演技をする場合とオーバーリアクションをする場合と2通りありますが、必ずしもどちらか1つのタイプの演技だけで全編を通す必要はないと思います。それに合う演技をそれなりの理由で当てはめていけばいいのです。皆で意見を出すということは、偏った好みとか弱点を克服する意味もあったと思います。たくさんの人の意見や好みを取り入れてまとめたからこそ、大衆に受ける、感動させられる作品ができたのだと思っています。」
なるほど。タイでたくさんの人々に支持されただけあって、自信に満ちた意見でした。ディアオさんといえばキャスティング。映画に登場する二人の対象的なお父さんは、実は共に往年の人気ミュージシャン。そういえば、大人のジアップ役を演じた人も現在活躍中のミュージシャンです。
A「二人の主人公のお父さんと成長したジアップを演じた方は、皆さんミュージシャンですよね? 何か意図されたのですか?」
以下、皆さんそれぞれから意見が飛び出して、楽しそうな会話が交わされることに。
ボール「最初から父母役は、80年代のスーパースターにしようと考えていました。昔、有名な歌手や俳優だったということで、自分たちも『ああ、懐かしいなあ』と思うし、もう一度見たくもあり、過去の雰囲気作りには欠かせませんでした。」
ヨン「歌手にしようと決めていた訳ではなく、過去のスーパースターを選んだらたまたま歌手に落ち着いただけで、俳優でも歌手でもどっちでもよかったのです。」
ディアオ「受けてくれた人がたまたま、特にお父さんは歌手だったのです。」
ピン「ノイナーのお母さん役の方も昔有名な歌手でしたよ。」
ボール「スクールバスの席で、ジャックとプリックがいきなりぬっと現われて、二人(ジアップとノイナー)をからかって歌うシーンがありましたよね。ジアップが足を恥ずかしくてどけてしまうシーン。あれはお母さんの曲です。
青年のジアップ役が歌手だったというのも偶然です。子役のジアップを選んだ時に、大人になった時に顔の似ている人を選ぼうと思っていて、彼がすごく似ていたのです。彼は歌手ですが、演技もそこそこできたので選びました。もし、僕の顔がが子役のジアップにそっくりだったら(一同爆笑)、僕が演じた可能性もあります。ほんとうにそうだったかもしれません。」
ここで皆から「え?ホント?」と突っ込みが入る。
ボール「似てると思いますか?」
と、ボールさんが眼鏡をとる。返答に困惑する私に、一同大笑い。この日、最後の取材で皆さんリラックスしていたのか、とっても和気あいあいのいいムードに。なのに、予定の取材時間は残りわずか…。
A「最後の質問です。皆さんが作品に関わった部分で、自分が気に入っているシーンをそれぞれ教えてください。」
ディアオ「誰がやったというのがわかると面白くないと思うので、これは皆さんの想像にお任せしたいと思います。なので、好きなシーンをお話しましょう。」
ビン「一番苦労したのは、お父さんがジアップを学校に送る時に使っていた近道を、男の子たちがオートバイ付リヤカーで、ノイナーを追いかけるために走っていったシーンです。このシーンをどうして思いついたかというと、チェンマイに行った時に、山の上からオートバイ付リヤカーでダーッと100メートルくらい下りて来る人を見まして、ちょうど国立公園のところでピタッと停まったんです。おお、これはすごい!と思いました。友だちに言葉で説明してもよくわからないので、絵に描いて説明しました。実際にそのシーンを再現するのは、子どもたちにとって危ないことだったので、スタッフには用意に時間をかけてもらったのですが、実際の撮影は一瞬で、2時間程度で終わってしまいました。」
ディアオ「すべてのシーンに、皆がアイディアを出して関わっていると思います。一番感動したのは、ノイナーを追いかける時に、ジアップに男の子の友だちが協力してくれるところでした。もともとあのシーンを考えついた時から、どんな風になるんだろうと思っていたのですが、実際に演技をしているのを見ると、思わず引き込まれてしまうようなシーンでした。追いかけている内に、友情とかいろいろなものが詰まっていると思ったのです。」
ビン「ディアオはジアップを泣かせるためにタマネギを刻んで用意していたのですが、そんな必要はありませんでした。一生懸命走って、演技して、自分が演じている人物の気持ちになって泣いたんだと思います。しかも、あれはジアップの最後の出演シーンでした。」
皆さんそれぞれの意見を聞きたかったのですが…ここで無情にもタイムアップ!
一同「じゃ、皆同じってことで。ゴメンナサイ。」
通訳さんを介すると短い回答も、実際は一人がしゃべっている間に周りの皆から横やりが入り、回答が長くなりがち。しかも言葉はタイ語。それで、通常の取材よりも時間がかかってしまったのでした。タイ語がわかれば、きっと面白い会話がたくさん交わされていたことでしょう。あ〜残念。
最後は監督さんたちの写真撮影で、各自好きなポーズをとってもらうことに。マッハ風、トニー・ジャー風、日本風、ちょっとかわいく…と様々なポーズできめてくれました。それぞれの作風や今後の作品についてじっくりと聞けなかったのが残念ですが、次はきっと6人6様の映画を見せてくれることでしょう。
(取材日:2005年3月2日 渋谷セルリアンタワーにて/タイ語通訳:高杉美和さん)
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